血管を汚水が流れるようだった

盤上の夜 (創元SF文庫)

盤上の夜 (創元SF文庫)

SF小説ってヴォネガットくらいしかまともに読んだ記憶がなくて、『1984』も途中で厭になってしまったが、この『盤上の夜』は凄まじかった。そもそも日本人作家のSFって小松左京とか筒井康隆とか星新一くらいしか読んだことなかったかな。

六編からなるデビュー作品集で、どの短編も長編としても書けるくらいの密度があって、洗練された文体とセンスから深みのある文学性が生まれ、今後読み続けたい作家と出会えたという喜びがある。

一編毎に一つのゲームが題材としてある。囲碁、チェッカー、麻雀、チャトランガ、将棋。それぞれの世界に身を投じた人間達が織り成す諸々を切り取っているが、そこに虚実が入り乱れることによって生じるSF的要素と哲学とが読者各々による思いを抱かせる。

その中でもチェッカーを題材とした『人間の王』という物語は、これはノンフィクションじゃないかと思いながら読んでいた。後からググってみると、書かれていることはやはり事実のようだったが、チェッカーというマイナー且つ滅んだゲーム故知りえない謎が多い。だからなのか、ノンフィクションであっても正にSFだった。
実際にあった過去の出来事をSFとして読まされる感覚は新鮮だった。

『千年の虚空』は将棋を扱った話だが、棋譜や符号は一切出てこず、池上遼一作画で全二十三巻くらいの漫画になりそうな一編だった。

どれも短編でありながら、一人あるいは数名の人生を書いた大河だった。
繰り返される諸行無常、よみがえる性的衝動、人間の業、遊戯、歴史、意思、思念、真偽、様々な要素を搾って出た汁を煮詰めて出来たドス黒く磯臭い固まりを煙草のヤニのこびりついた窓ガラスに投げつけて割れた破片の突き刺さったチンピラの苦渋い表情みたいな小説でした。いや、路上の油浮く虹色の水溜まりにベロを繰り返し浸す野良犬の前世の記憶を呼び起こすAIが導き出したこの世の結論みたいな。いや、おつんつんのどぴゅどぴゅをネピネピメイトで...(業)